美味しいカレーを作るために大切なのは、特別な隠し味を何種類も入れることではありません。材料の大きさをそろえ、玉ねぎの甘みを引き出し、肉を香ばしく焼き、ルウを丁寧に溶かすこと。基本の作業を少し意識するだけで、いつもの家庭のカレーはぐっと美味しくなります。ここでは、市販のルウを使い、初めてでも作りやすい四人分のビーフカレーを紹介します。
用意する材料は、牛肩ロースの薄切り肉三百グラム、玉ねぎ二個、にんじん一本、じゃがいも二個、にんにく一片、サラダ油大さじ二、市販のカレールウ四人分、温かいご飯四人分です。水はルウの箱に書かれた四人分の分量を基本にしてください。商品によって必要な水の量が違うので、最初から自己流で増減しないほうが、味ととろみを整えやすくなります。仕上げ用にバター十グラムを用意すると、まろやかな香りも加えられます。
最初に、材料を切ります。玉ねぎは一個を薄切りにし、もう一個をくし形に切ってください。薄切りは炒めて甘みととろみを出す役、くし形は食べたときの存在感を残す役です。同じ玉ねぎでも切り方を変えると、カレーに味と食感の奥行きが生まれます。にんじんは小さめの乱切り、じゃがいもはひと口大に切ります。大きさが極端に違うと火の通りがそろわないので、にんじんはじゃがいもより少し小さくするのが目安です。
切ったじゃがいもは水に五分ほどさらし、水気を切っておきます。表面のでんぷんを軽く落とすことで、煮ている間の崩れを抑えやすくなります。にんにくはみじん切りにします。牛肉が長ければ食べやすい長さに切り、表面に水分が多いときは、キッチンペーパーで押さえてください。水気を取ると焼き色がつきやすくなります。生肉を切った包丁やまな板は、ほかの食材に使う前に十分に洗いましょう。
鍋は、底が厚く、材料を混ぜてもこぼれにくいものがおすすめです。鍋にサラダ油大さじ一を入れ、中火で熱します。牛肉を広げて入れ、すぐには動かさず、片面に焼き色がつくまで待ってください。一度に全部入れると鍋の温度が下がり、焼くより蒸す状態になりやすいので、量が多ければ二回に分けます。裏返して表面の色が変わったら、いったん皿に取り出します。ここでは完全に火を通し切ろうとせず、後の煮込みで仕上げます。
肉を取り出した鍋に残りの油を足し、薄切りの玉ねぎを入れます。最初は中火で全体を混ぜ、水分が出てきたら火を少し弱めます。鍋底に玉ねぎを広げ、ときどき返しながら十五分から二十分ほど炒めましょう。濃いあめ色になるまで頑張る必要はありません。全体がしんなりして、淡いきつね色になり、甘い香りが立ってくれば十分です。焦げつきそうなら水を大さじ一ほど加え、鍋底を木べらでこそげながら混ぜます。
玉ねぎが色づいたら、にんにくを加えてさっと炒めます。にんにくは焦げやすいので、この段階で入れると扱いやすくなります。続いて、くし形の玉ねぎとにんじんを加え、表面に油が回るまで二分ほど炒めます。じゃがいもも加え、軽く混ぜてください。ここで強い焼き色をつける必要はありません。野菜の表面に油をまとわせ、炒めた玉ねぎとなじませる感覚で進めます。
箱に書かれた量の水を注ぎ、取り出しておいた牛肉を、皿に出た肉汁ごと戻します。鍋底に茶色い旨みがついていたら、木べらで優しくはがしてください。ただし、黒く焦げて苦いにおいがする部分まで混ぜ込まないようにします。中火で沸かし、表面に浮いた泡やアクをお玉で取り除きます。細かな泡を一つ残らず取ろうとする必要はなく、大きなかたまりをすくえば十分です。
沸騰したら、弱火に落として十五分から二十分ほど煮ます。ふたの使い方と煮込み時間は、ルウの箱の表示に合わせてください。火加減の目安は、表面が激しく波打たず、小さな泡が静かに上がる程度です。強火でぐらぐら煮続けると水分が減りすぎ、じゃがいもも崩れやすくなります。ときどき鍋底から優しく混ぜ、にんじんとじゃがいもに竹串がすっと通るか確かめます。硬さが残っていたら、ルウを入れる前にもう少し煮ましょう。
野菜が柔らかくなったら、いったん火を止めます。煮立ったままルウを入れると、外側だけが固まり、溶け残りができやすいためです。ぐつぐつした動きが落ち着いたところで、ルウを割り入れ、お玉や木べらでゆっくり混ぜて溶かします。鍋の隅や野菜の下にかたまりが残りやすいので、底まで確かめてください。急いでかき回すより、温かい煮汁になじませるように動かすほうが、具材の形もきれいに保てます。
ルウが溶けたら、再び弱火にかけます。箱に示された時間を目安に、五分から十分ほど、鍋底から混ぜながら煮てください。ルウを入れるととろみがつき、鍋底が焦げつきやすくなります。この仕上げの時間は鍋から離れず、とくに底の中央を意識して木べらを動かしましょう。全体につやが出て、とろみが均一になれば完成が近づいています。バターを使う場合は、最後に加えて溶かします。
味見は、少量を小皿に取り、少し冷ましてから行います。熱すぎると味をつかみにくく、必要以上に調味料を足しがちです。味が濃ければ、湯を少しずつ加えて調整します。さらさらしすぎている場合は、弱火で混ぜながら少し煮詰めてください。反対に、重たく感じるほどとろみが強ければ、湯を少量加えます。一度に大きく変えようとせず、大さじ一、二杯ずつ足して確かめると失敗を防げます。
隠し味を加えたいときも、まずはそのまま味わってください。市販のルウには、香辛料や甘み、旨みがあらかじめ組み合わされています。ソース、ケチャップ、コーヒーなどを次々に入れると、目指す味がわからなくなります。何か加えるなら一種類だけ、少量から試しましょう。鍋全体に入れる前に、小皿に取ったカレーで試せば、好みに合うか確かめられます。
盛りつけるご飯も、美味しさを左右します。ご飯を皿にふんわりよそい、カレーを隣にかけます。ご飯をぎゅっと押し固めると、口の中でカレーとなじみにくくなります。福神漬けやらっきょう、刻んだパセリなどを少量添えると、味と見た目に変化がつきます。辛さを調整したい場合は、鍋全体を変えるより、食べる人がそれぞれの皿で調整すると好みに合わせやすくなります。
食べ切れなかった分は、鍋のまま長く常温に置かず、浅い容器に小分けして早く冷まし、冷蔵庫へ入れてください。温め直すときは、底からよく混ぜ、全体が十分に熱くなるまで加熱します。一晩置けば必ず美味しくなると考えて常温で寝かせるのは避けましょう。出来たてでも、玉ねぎを丁寧に炒め、具材にきちんと火を通せば、満足できる一皿になります。
作る時間に余裕がない日は、玉ねぎを薄めに切り、にんじんとじゃがいもを小さめにそろえると、加熱の時間を短くできます。ただし、火を強めて一気に仕上げようとすると、玉ねぎが焦げたり、野菜の中心が硬いままになったりします。急ぐ日ほど、一つひとつの変化を見ながら進めることが大切です。
また、初めて使うルウなら、まず箱の作り方を守って一度作ると、その商品の味がわかります。次に作るとき、玉ねぎをもう少し炒める、肉を変える、バターを省くなど、一か所だけ調整してみてください。変えた点が少ないほど、何が好みに合ったのかがつかめます。美味しいカレーは、身近な材料と小さな工夫の積み重ねで作れます。お試しあれ。